親知らずの歯茎が痛む…もしかして「智歯周囲炎」かも
監修:歯科医師 安藤壮吾
奥歯が痛い……親知らずかな?でも抜くのは怖いし、一時的な症状だろう……なんて考えて、親知らずの痛みを放置していませんか?確かに、抜くのは不安があると思いますが、放置することで他の歯に影響が出る恐れもあります。今回は、親知らずに違和感や痛みがある方や親知らずの抜歯に不安を持たれている方へ、「智歯周囲炎」についてお話させていただきます。
親知らずの歯茎が痛い。「智歯周囲炎」の可能性があります!
「親知らず」と呼ばれる歯をご存じですか?
「親知らず」はだいたい20歳前後に12歳臼歯の奥に生えてくる歯のことで、別名「第三大臼歯」や「智歯(ちし)」とも呼ばれています。
子供のうちは親が仕上げ磨きをしていることが多いため、子供のお口の中を確認することができ、その変化に気づきやすいです。しかし、親知らずは、大人になってから生えてくるため、生えたかどうかさえも親が知らないことが多いです。親に知られないうちに生えてくることが由来となって「親知らず」と呼ばれています。
「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」とは、親しらず周囲の歯茎や歯周組織に起こる炎症のことを言います。
「親知らず」は12歳臼歯のさらに奥に生えてきます。そのため、生えるスペースが確保されにくく、まっすぐ生えてくることができず斜めに生えることもあります。このような状態だと、他の歯に比べて汚れの蓄積や細菌の増殖が起こりやすく、歯茎の炎症が引き起こされやすくなります。
智歯周囲炎の原因は「細菌繁殖」
智歯周囲炎の原因は、細菌繁殖です。
親知らずの周囲で細菌繁殖が起こりやすい原因は、親知らずの生え方にあります。
親知らず自体の向きはまっすぐでも、生えるスペース自体が足りないことで一部分しか歯茎から出ていなかったり、斜めに生えていたりすることもあります。そうすると、歯ブラシがうまく当たらずプラーク(歯垢)が蓄積しやすく不衛生な状態になります。
プラーク(歯垢)が付着したまま時間が経つと、プラーク内部に存在する細菌が増殖し、歯肉炎や歯周炎を引き起こしやすくなります。智歯周囲炎を予防するためには、日頃から親知らずのケアが重要です。
「智歯周囲炎」を放置した場合に考えられること
智歯周囲炎になっても、痛みさえ落ち着いてしまえば歯科医院に行かずそのまま放置してしまうこともあるのではないでしょうか?しかし、「智歯周囲炎」には放置するリスクがあります。そのリスクについて具体的にご説明します。
他の歯や顎骨への影響
智歯周囲炎が起こりやすい場所は歯磨きがしにくい状態であることが多いため、そのままにしておくと、智歯周囲炎の再発や、親知らずあるいは隣の歯が虫歯になってしまうことがあります。
また、炎症を放置すると歯周組織内部まで進行することがあります。歯を支えている骨(歯槽骨:しそうこつ)にまで炎症が拡がって溶かされてしまい、歯と歯茎の間に存在する歯周ポケットが深くなります。その結果、歯がぐらついたり、抜けてしまったりすることがあります。
全身への影響
酷くなると炎症が大きくなり顔が腫れたり、発熱、倦怠感など全身への影響を及ぼすことがあります。
さらに、炎症は免疫力が低下しているとおこりやすく、この智歯周囲炎も放置することで重症化して首の部分にまで及ぶと、呼吸困難を招く恐れがあります。この状態を「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と言います。
早期発見、早期治療をお勧めします
親知らずは、必ずしも抜かないといけないわけではありません。
生え方や状態によっては経過観察をすることもできます。
痛みが強い時に抜きたいと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、痛みが強い時に抜歯を行うと腫れや痛みが増すことがあります。そのため、親知らず周囲の歯茎を専用の機械で洗浄し、必要であれば抗生剤を服用していただいた上で、炎症が落ち着いてから抜歯を検討することがほとんどです。
炎症が軽度な場合は、親知らずの周りを洗浄し、消毒をすることで1週間程度で落ち着いてくることもあります。
智歯周囲炎の予防には、こまめに親知らずをケアすることが大切です。歯科医院で定期健診やクリーニングを受けていただくことも効果的です。
ご自身の親知らずが気になる方は、親知らずがどのような状態なのか歯科医院で一度診てもらうと良いでしょう。