親知らず抜歯後の穴はいつ頃ふさがる?抜歯後のケアと注意点
監修:歯科医師 安藤壮吾
親知らず抜歯後の穴が完全にふさがるまでの期間は、通常1ヶ月程度ですが、お口の状態や治療の難易度によっては半年から1年かかることもあります。今回は、抜歯後の穴がどのように自然に閉じていくか、そして抜歯後から回復過程においての注意点について詳しく解説します。
親知らず抜歯の穴は1カ月程度で塞がる
親知らずを抜歯した後、穴が塞がるまでの期間は、おおよそ1ヶ月程度です。抜歯直後の穴には血液がたまります。その血液はゼリー状で、傷口を守るための蓋のような役割を果たします。
1週間後くらいには、血液で満たされた穴に組織が少しずつ形成され、その組織がしっかりと定着していきます。
2週間くらい経つと穴の開いている部分に骨が形成されます。
1ヶ月が経過する頃には傷口は歯茎に覆われ穴はほぼ目立たないくらいに塞がります。
お口の状態や治療の難易度により抜歯後の治り方に個人差がみられる場合もあり、穴が完全に塞がるのに半年から1年かかる方もいらっしゃいます。
抜歯後の傷口の治り方
抜歯後の傷口の治り方には個人差がありますが、正しいケアと注意点を守っていただくことで、傷口の回復が進みやすくなります。
①1~2日後:血餅(けっぺい)の形成
抜歯を行った直後の1〜2日で、抜歯部位の穴は血液で満たされます。その血液は固まってゼリー状になることで、抜歯によって露出した骨を覆う、かさぶたの役割を果たします。この血液の塊を血餅と呼びます。
血餅ができると、外部から傷口へ細菌が侵入するのを防ぐことができ、傷口が保護された状態になります。抜歯後の傷口が治る過程において初期段階となる血餅の形成は、傷口が正常に治るために非常に重要です。血餅により傷口が保護されることは、炎症や感染のリスク軽減にも繋がります。
②3~4日後:上皮化
抜歯後の3~4日目くらいには上皮化が進行し、傷口の表面が新しい上皮細胞で覆われます。上皮化により薄い膜で覆われたような状態になり、傷口は自然な見た目に近づき、治癒がさらに進みやすくなります。これにより、傷口は外部からの保護が強化され、表皮の回復が促進されます。
③7日後: 血餅が肉芽組織に変化
7日後くらいには、抜歯部位の血餅が肉芽組織に変化します。肉芽組織は柔らかく、血管を多く含んでいるので色が赤いです。また、コラーゲン繊維を豊富に含むため、傷口の治癒や保護をする役割を果たします。この組織は血餅よりも強く抜歯窩に定着して剥がれにくく、骨が露出するリスクが大幅に減少します。
④2~4週間後: 骨が再生し始める
抜歯後の2~4週間くらいで、肉芽組織は上皮や神経、骨などの組織と組織をつなぐ結合組織に変化します。そうすると、血液の運搬がさらに促進され、新しい骨の再生も進みやすくなります。
結合組織は、抜歯により大きく穴の開いた部分を構造的に強化し、新しく形成された組織の定着化を促す働きを持ちます。この時期には新しい骨細胞が活動を開始し、失われた骨組織の修復と再生も進められます。
⑤1ヶ月~1ヶ月半後 : 抜歯窩が歯肉に覆われる
抜歯後1ヶ月から1ヶ月半の期間で、抜歯によりできた穴(抜歯窩:ばっしか)は歯肉で完全に覆われます。抜歯窩内で骨の再生と結合組織の発達が進み、新しい歯肉が形成されるからです。これにより、抜歯窩の治癒はほぼ完了するため、外見上も自然な歯肉の色と形状に戻り、穴自体もほぼ目立たなくなります。
⑥3~6カ月後 :歯茎の穴が完全に埋まる
抜歯後3~6カ月くらいで、歯茎の穴が完全に埋まります。この時期には、歯茎を形成する上皮組織と結合組織、その内部にある骨組織が再生するためです。
骨組織は形成しはじめの未熟な状態から、骨の密度が増すことで徐々に成熟し硬くなっていきます。完全に回復すると、レントゲン写真で顎骨の状態を確認しても、抜歯した部分がわからないこともあるくらいです。
抜歯後のケアと注意点
抜歯後の傷口を治りやすくするためには、なるべく刺激を与えないことが非常に重要です。以下の点に注意しケアを行うようにしましょう。
①強いうがいを避ける
抜歯した当日は強いうがいを避けるようにしてください。お口の中が気持ち悪く感じるかもしれませんが、強くうがいをすると傷口を保護している血餅が剥がれてしまい、細菌感染のリスクが高まります。そのため、抜歯後にうがいをする際は、口に少量の水を含み、傷口に当たらないように気をつけて軽くすすぐ程度にしましょう。
②歯ブラシで傷口を強くこすらない
抜歯後は、抜歯した部分を触ったり、歯ブラシで強く擦ったりしないようにしましょう。抜歯したところ以外は通常通り磨いても大丈夫ですが、抜歯した部分は血餅が剥がれないように気をつける必要があります。
磨き残しが気になる場合は、柔らかい歯ブラシを使用し、抜歯窩には触らず、その周囲のみサッとなでるくらいにしておきましょう。
③硬い食べ物や熱い飲み物を避ける
食事にも注意が必要です。硬い食べ物や熱い飲み物は傷口に刺激を与え、痛みや再出血の原因になるため避けるようにしましょう。
また、口が開きにくい場合もあるため、抜歯後痛みが落ち着くまでは傷口に負担をかけにくい食事に変えていただくことをおすすめします。ゼリーやヨーグルトのように、柔らかくて冷たい食べ物がおすすめです。おかゆなど熱い食べ物であれば、ある程度冷ましてから食べるようにしましょう。
④過度の運動や激しい活動は控える
抜歯後は激しい運動を避けてください。激しい運動を行うと、血圧が上昇し、傷口からの出血が再び起こるリスクが高まります。また、痛みや腫れを悪化させる可能性もあります。軽いストレッチのような軽度の運動であれば、傷口の状態を考慮しながら行うことは問題ありませんが、心拍数や呼吸が著しく増加するような活動は控えましょう。
⑤喫煙や飲酒は避ける
抜歯後は喫煙や飲酒を避けるようにしてください。これらの行為は傷口の治癒を遅らせる原因となります。
〇喫煙
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、その結果、血流が悪くなります。血流が悪いと、傷口を治すための十分な血液が供給されず、治癒が遅れることがあります。
〇飲酒
アルコールを摂取すると血管が拡張し、出血しやすくなります。出血が長引くと、傷口の治りが悪くなります。
⑥ドライソケットに注意する
抜歯後はドライソケットへの注意が重要です。ドライソケットとは、抜歯後に形成される血餅が取れてしまい、骨が露出する状態になることです。ドライソケットになると激しい痛みが伴います。。ドライソケットの主な症状には以下のものがあります。
- 抜歯後2〜4日で発生する強烈な痛み
- ズキズキと脈打つような痛み
- 痛みが2週間程度続く
- 口臭が悪化する
これらの症状が見られる場合は、ドライソケットである可能性が高いため、すぐに歯科医院を受診してください。ドライソケットを防ぐためにも、抜歯後は指示された注意事項を厳守しましょう。
親知らず抜歯後のスムーズな治癒には「血餅」が大切!
親知らず抜歯後は、血餅が形成されることで抜歯した部分の穴が自然に回復します。もし痛みや腫れが発生したり、血餅が剥がれてしまった場合には、迅速に歯科医師の診察を受け、適切な処置を受けていただくことが重要です。ドライソケットなどの合併症を防ぐためにも、抜歯後の注意事項を守り、適切なアフターケアを行なうようにしましょう。